Coldplayの先行シングル フリーダウンロードが変革させる音楽業界。そこに残るのは「美しき生命」?

美しき生命 【初回限定盤】

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 Coldplayのニューアルバム「Viva La Vida and Death and All His Friends」。ブライアン・イーノプロデュースとなった今作は、これまでのColdplayに無く、力強くてメッセージ性に溢れるアルバムに仕上がっていますね。前作までに比べて、余りにイメージが違うので、「In My Place」や「Yellow」をキタイしていたリスナーからはちょっと賛否両論出そうですが、僕は今作は間違いなく、音楽シーンに歴史の1ページを刻んだと思っています。

 さてそんな「Viva La Vida and Death and All His Friends」、リリースされるまで、話題に事欠くことが無い、新しいプロモーションを行ったColdplay。特に話題になったのは、アルバムリリース1.5ヶ月前に行った、先行シングル「Purple Hill」のフリーダウンロード。24時間で60万人がダウンロードしたとのこと。

http://www.bounce.com/news/daily.php/13987

開始後12時間以内でダウンロード数が30万を記録し、その後もオフィシャルサイトには世界中からのアクセスが殺到。一晩でその数は倍に膨れ上がり、24時間が経過してすでに60万人以上の人々が同シングルをダウンロードしたという。

 世界トップクラスの人気を誇るバンドが行った施策であり、24時間で60万人のダウンロードという結果としては当然の実績だと思います。1週間行われたこのフリーダウンロード、400万ダウンロードぐらいは伸びたのかな?

 数値はともかく、今回行ったこと自体に色んな意味があります。

Coldplayのメリット

アルバムのプロモーション

 通常、アルバムのプロモーションは1.5ヶ月前から行われます。
 アルバム「Viva La Vida and Death and All His Friends」のリリースは全世界で7月20日前後、フリーダウンロードが開始されたのは4月29日。
 時系列としては抜群なタイミング、そして興味のあるグレーユーザー〜コアユーザーへの音鳴らしがきっちりできた。アルバムのプロモーションとしてはこれ以上無く、大成功でしょう。

CRM

 先行シングルの無料ダウンロードに際しては、

  • 郵便番号
  • メールアドレス

の登録ありきでしたが、ダウンロードされた数だけのグレーユーザー〜コアユーザーへ簡単なCRMが可能となりました。
とは言え、一度獲得したメールアドレスもいつまでも有効な訳ではない。メールアドレスが腐らないような継続した施策が必要にはなりますが。

Coldplayがフリーダウンロードキャンペーン!」という話題によるCGM喚起/パブ獲得。

 普段から「音楽は無料になるべき」と、こと音楽とネットのコトになると、熱が入るMichael Arrington氏もここぞとばかりにご自分の正当性とリンクしてエントリー。

http://jp.techcrunch.com/archives/20080501look-at-free-music-look-how-it-drives-web-traffic-to-you/

Coldplayに明確な利益をもたらしたところをみると、音楽の無料提供というアプローチの効果がある程度証明されたかたちだ。

音楽業界のデメリット

楽曲では儲からない仕組みに。

 今回のケースが成功例だったとすれば、追随するアーティストは間違いなく増える。
 先行シングルをフリーにしてアルバムセールスに繋げる・・・。でもその思惑や戦略が通じるのは、1〜2年ぐらい。3年後は、フリーダウンロードをしてもらうために、広告を買うハメに陥ってそう。
するとどうなるか。少なくても、ユーザーは「楽曲はタダ」だと認識して、慣れてしまって、飽きてしまう。
 当然、先行シングルを売っても売れるハズもなく。

 ちなみに、レコード会社は評判が悪い。
 「なぜCDは高いのか?今や機材とかは相当安価なのに。」というのが消費者のギモンだからだろう。
契約によりけりだけど、アーティストにきちんと見返りを返すためにそれなりの値段がしているし、宣伝するにも金はごっそりかかります。それって、中々伝わらないコトだからしょうがないが。
 話は若干それました。ココでレコード会社の評判の悪さを愚痴気味にトツゼン語ってみたのは、「楽曲が売れなくなったら、アーティストへ支払う印税が減少して、アーティストの創作意欲が低下する」ってコト。
 アーティストも人間ですし、最初は好きなだけで始める音楽も、それが評価されると、音楽でメシを食うことを夢見て、更に精進するもの。
 だけど、「楽曲を作っても儲からない」コトがわかったら、テンションガタ落ちになってしまう。
以前のエントリーで、「アーティストの音楽以外の付加価値」をレコード会社は作るべきと語りましたが、音楽業界で言うアーティストは音楽を作ってナンボですからね。やっぱり楽曲で最低限、収入がないと、イイ音楽が作れなくなってしまう。

音楽業界の「美しき生命」とは?

ちなみに「Viva La Vida and Death and All His Friends」とは、二つの意味を内包している。「Viva La Vida」とは「美しき生命」、「 Death and All His Friends」とは、「死とその友人」。

 今回のフリーダウンロード施策、成功したかどうかはまだわからない。
 でも、Coldplayという、世界でもTOPクラスの支持があるアーティストが開いた「パンドラの箱」。そのパンドラの箱が開いた、未来の音楽業界は、キラ星のアーティストが存在する「美しき生命」の世界なのか、それともアーティストが枯渇した「死」の世界か?