矢口敦子「償い」

償い (幻冬舎文庫)

償い (幻冬舎文庫)

最近サスペンスに取り憑かれていて、狂ったように宮部みゆきを読みあさるこの頃。
本屋でリコメンドされてたので買ってみたところ、これはなかなかの傑作でした。

無くしてわかる大切なものと、無くす前に大切だと思っていたものが、砂の城でしかなかったと後で気づく苦しみ。

悩んだ挙げ句、主人公は名前を捨て、普通名詞の「男」になり、街を徘徊する。
いわゆるホームレスに。

そんな彼が何気なく住み着いたのは、昔とある“縁”で彼の深層心理の中に残っていた郊外の平和な街。そこで起きる連続殺人、そして彼が砂の城を大切にする人間になる前に、無償の愛で救った少年に10数年ぶりに再会、その彼が持つ苦しみとは。

そして心打たれた言葉。

人の体を傷つければ犯罪なのに、人の心を傷つけても犯罪にならない。

厳密に言うと、、、というナンセンスな解し方ではなく、人の心を傷つける苦しみ、それは人間であれば誰でも経験があるし、思い出もあるはず。

大切な人を傷つけ、失ったときに、失った人間はこの主人公のように自分を裁くべきか?

そんなことを自問自答しながら読了。考えられる、そして大切なことを改めて感じることができたサスペンスでした。